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仙台高等裁判所 昭和59年(ネ)43号 判決

控訴人(原審当事者参加人)兼当審被参加人兼反訴被告(以下単に控訴人という)

御所湖株式会社(旧商号 株式会社もりおか新聞社)

右代表者代表取締役

上田武夫

右訴訟代理人弁護士

及川卓美

被控訴人(原審被参加人)兼当審被参加人兼反訴原告(以下単に被控訴人という)

佐藤敏

右訴訟代理人弁護士

大澤三郎

右訴訟復代理人弁護士(但し第二九一号事件)

眞田昌行

被控訴人(原審被参加人)兼当審被参加人(以下単に被控訴人という)

亡青山甚吾訴訟承継人

青山光男

被控訴人(原審被参加人)

菊池一郎

当事者参加人兼反訴被告(以下単に参加人という)

株式会社丸昌

右代表者代表取締役

西原昌裕

右訴訟代理人弁護士

西尾則雄

主文

一  控訴人の本件控訴を棄却する。(ただし、原審被告青山の訴訟承継にもとづき、原判決の主文第一項の「被告ら」のうち被告青山に関する部分を「被告(当審被控訴人)青山甚吾訴訟承継人青山光男」と更正する。)

二  当審における被控訴人佐藤の反訴請求につき

1  控訴人及び参加人は、被控訴人佐藤に対し、別紙目録(一)記載の土地につき盛岡地方法務局昭和四一年三月一四日受付第五八二三号をもつて移転付記登記を経た同法務局同年一月五日受付第一八号所有権移転請求権仮登記に基づく本登記手続をすることを承諾せよ。

2  予備的請求に係る訴えを却下する。

3  その余の反訴請求を棄却する。

三  当審における参加人の請求につき

1  参加人、控訴人、被控訴人佐藤及び同青山甚吾訴訟承継人青山光男間において、参加人が別紙目録(二)記載の源泉権を有することを確認する。

2  控訴人、被控訴人佐藤及び同青山甚吾訴訟承継人青山光男は、参加人が右源泉権に基づき源泉からの温泉の採取、利用、管理をなすのを妨げてはならない。

3  参加人のその余の請求を棄却する。

四  当審における訴訟費用中、控訴人、被控訴人菊池一郎、同青山甚吾訴訟承継人青山光男に各生じた分の全部、被控訴人佐藤に生じた分及び参加人に各生じた分の各二分の一は各自の負担とし、被控訴人佐藤に生じた分の残余はその余の各当事者らの、参加人に生じた分の残余はその余の各当事者らの、各連帯負担とする。

事実

第一  申立

一  控訴代理人は、控訴につき「原判決を取り消す。控訴人、被控訴人佐藤、同青山甚吾訴訟承継人青山光男(以下において単に「被控訴人青山」というときは、承継前の被控訴人青山甚吾を指す。)及び被控訴人菊池一郎との間において別紙目録(原判決の添付目録と同じ。)(一)記載の鉱泉地が控訴人の所有であることを確認する。被控訴人佐藤は右土地につき盛岡地方法務局昭和四一年三月一四日受付第五八二三号による所有権移転請求権の移転付記登記の抹消登記手続をなせ。被控訴人青山甚吾訴訟承継人青山光男(以下、「青山光男」を省略して呼称することもある。)は控訴人に対し、右土地につき同法務局同年三月二日受付第四九五二号による承継前の被控訴人青山のための所有権移転登記の抹消登記手続をなせ。被控訴人菊池は控訴人に対し、右土地につき、同法務局同年二月一七日受付第三六三九号による所有権移転登記の抹消登記手続をなせ。控訴人と被控訴人佐藤、同青山訴訟承継人との間において、控訴人が別紙目録(原判決の添付目録と同じ。)(二)記載の源泉権を有することを確認する。被控訴人佐藤及び同青山訴訟承継人は、控訴人が右源泉権に基づいて温泉の採取、利用、管理及びそのための建物工作物の建築所有のため、別紙目録(一)記載の土地を使用することを妨げてはならない。」との判決を、参加につき「参加請求棄却」、反訴につき「1及び2の請求棄却」の各判決を求め、反訴3の提起に不同意であると述べた。

二  被控訴人佐藤代理人は、控訴につき「控訴棄却」の判決を、参加につき「請求棄却」の判決を、反訴につき「1主文第二項1同旨、2(主位的に)「被控訴人佐藤と控訴人及び参加人との間において、同被控訴人が別紙目録(二)記載の源泉権を有することを確認する、3(予備的に)控訴人及び参加人は、右源泉権に基づく温泉の採取、利用をしてはならない、4訴訟費用は控訴人及び参加人らの負担とする。」との判決を求めた。

三  参加代理人は、参加につき「主文第三項1同旨及び控訴人、被控訴人佐藤及び青山訴訟承継人は、参加人が右源泉権に基づき、温泉の採取、利用、管理のため別紙目標(一)記載の土地を使用することを妨げてはならない。参加による訴訟費用は、控訴人、被控訴人佐藤及び同青山訴訟承継人らの負担とする。」との判決を求め、反訴につき、反訴提起に不同意である旨を述べた。

第二  当事者の主張と証拠関係

一  各当事者の主張及び証拠の関係は、各当事者から、当審において次項以下のとおり、主張の補充、訂正及び認否、反論がなされ、当審における証拠関係が当審記録中の証拠目録のとおりである(なお、控訴人は当審第一〇回弁論期日において、丙第二七号証ないし第三〇号証を撤回し、当審参加人及び被控訴人佐藤の同意を得たが、原、当審被参加人である被控訴人青山及び原審被参加人である被控訴人菊池の同意を得ていないから民訴法七一条、六二条により、撤回の効果を生じないものである。)ほかは、原判決の事実摘示(ただし、原判決四枚目裏一一行目の「本件仮登記」を「本件登記」に、同八枚目表一一行目の「公定的」を「確定的」に、同裏一二行目の「第二」を「第三」に、同一二枚目裏三行目の「第三」を「第四」に、同一八枚目表三行目の「第一〇」を「第九」に、同七行目の「市太郎」を「市三郎」に各訂正し、同七枚目表四行目の「被告」の次に「青山」を、加入し、同一七枚目裏一一行目から一二行目までの「第八号証の二の消印部分、」を削る。)のとおりであるから、ここにこれを引用する。

二  参加人の参加請求の原因及びその補足主張

1  本件源泉権は、控訴人が、原始的に取得し、その後、原判決事実摘示第四(訂正後のもの)「参加人の主張」一5(五)の経過で、被控訴人青山がその権利を取得したのち、同第三「被告らの主張」、「(参加請求につき)」一「本案前の主張」記載の如く昭和四七年九月一〇日、同じく被控訴人青山の所有となつていた本件土地及び採湯場等の施設とともに、訴外三菱産業株式会社に売り渡され、参加人が昭和四八年六月一日、同会社から本件源泉権を、その所在の本件土地を含む一帯の土地及び地上の採湯場等の建物とともに、代金六億一二〇〇万円で買い受け、権利移転の約定時期である同年一一月一六日その権利を取得してそれ以来本件源泉権を占有、管理し、昭和四九年三月末日までにはその代金の支払を完了し、後述のとおり本件源泉権についてこれが参加人の権利であることの明認方法を施した。

2  しかるに、控訴人及び被控訴人佐藤、同青山訴訟承継人(被控訴人青山は昭和五八年一二月二四日死亡し、その権利義務を青山光男が承継した。)は本件源泉権が参加人に帰属することを争い、かつ、本件源泉の所在する本件土地について、参加人の土地使用を妨げている。

3  よつて、参加人は控訴人及び右被控訴人(被控訴人青山については訴訟承継人)らとの間で、参加人が本件源泉権を有することの確認を求めるとともに、控訴人及び右被控訴人ら(右同)に対し、本件源泉権に基づき、参加人の温泉の採取、利用、管理及び本件土地の使用の妨害禁止を求める。

4  参加人が施した明認方法、控訴人の本件源泉権取得の主張及び被控訴人らの主張に対する各反論は、次のとおりである。

(一) 参加人は昭和四八年一一月一六日訴外三菱産業株式会社から本件源泉権及び採湯場と隣接の二階建建物並びに土地の引渡を受けるとともに、不動産につき各所有権移転登記を受け、それ以後、本件源泉権の管理占有を開始し、また採湯場とその隣接する二階建建物を占有管理することになり、これらの採湯場及び附帯の施設を占有してきており、更に、昭和五八年三月三〇日には、本件源泉権の所在する本件土地上に、本件源泉権が参加人に帰属する旨の公示札を設置した。

参加人の本件源泉権取得を公示するための明認方法は、右の施設等の現実の占有管理がそれに当り、そうでないとしても右公示札の設置がそれに当る。

(二) 控訴人は、本件源泉権について自己の権利を主張するけれども、本件源泉権は、控訴人から訴外上田武夫と被控訴人青山に各持分二分の一ずつ移転され、次いで、上田から右持分が被控訴人青山へ、更に同被控訴人から訴外三菱産業株式会社へ、同会社から参加人へと順次移転したのであるから、控訴人は本件源泉権の譲渡人であつて、控訴人と参加人との間では、権利取得の対抗問題は生じないのである。

(三) この点について、控訴人は、自己もまた昭和四八年七月一五日被控訴人青山から本件源泉権を買い受けて取得したと主張し、その証拠(丙第一六号証)も提出されているが、右主張事実は否認する。右売買の証拠であるとして提出されている丙第一六号証は、被控訴人佐藤、同青山、同菊池と参加人との間で昭和五一年一月二六日訴訟上の和解が成立したところ、その後に作成された文書であつて、控訴人主張の事実にそわないものであるし、この文書は、被控訴人青山が一旦参加人に対して本件源泉権を売り渡した(この売買がなされるに至つた原因は被控訴人青山が訴外李基雨に対して一億六〇〇〇万円、訴外徳陽相互銀行に対して抵当権付きで二億五〇〇〇万円の負債を、訴外三菱産業開発株式会社が参加人に対して一億円の負債を、それぞれ負担していたため、これらの整理を目的としたものであつた。)のに、この売買に不満を持ち、前記和解後にいたり、右売買の事実を熟知していた控訴人の代表者上田武夫と通謀して、控訴人が本件源泉権を有するような外形を作出するため、権利の移転を仮装する目的のもとに作成されたものにすぎない。

かりに、昭和四八年七月一五日に控訴人主張の、本件源泉権の売買契約がなされたとしても、それは、本件訴訟で紛争中の契約であつて、紛争が決着することを停止条件とした契約であり、その効力は生じていない。

以上のことは、控訴人の代表者上田武夫がその主張の右売買ののちである昭和五六年ころ以降しばしば参加人に対して本件源泉の所在する鉱泉地(本件土地)を含む周辺の土地を数億円で買い入れたい旨を、書面で申し入れてきたことからも明らかである。

(四) 被控訴人佐藤は、本件源泉権が本件土地所有権の一部で土地所有権と一体をなすものであると主張するのであるが、本件源泉権は、源泉の所在する地盤たる土地の所有権とは別個独立の物権であることは明らかである。

(五) 次に、被控訴人佐藤は、参加人が和解において同被控訴人の本件源泉権所有を認めたと主張するけれども、右主張の訴訟上の和解は差戻前の控訴審判決(当庁昭和五二年(ネ)第一六五号事件)において、右和解が無効とされているのであつて、このことは私法上の和解の効力にも影響を及ぼし、結局、右和解における合意が無効であることは、従来の判例(最高裁昭和三一年三月三〇日判決)からも明らかである。

かりにそうでないとしても、右和解は、参加人の錯誤に基づく意思表示によつてなされたもので、私法上も効力のないものである。

すなわち、参加人は右訴訟上の和解手続きに利害関係人として参加し、その和解において、被控訴人の主張の如き合意をしたが、それは差戻前の原審裁判所において被控訴人佐藤と同青山とが本件源泉権の帰属をめぐつて訴訟をしており、参加人は被控訴人青山から多大な資本を投下して本件源泉権を取得しても温泉として利用できないでいたところから、参加人も加わつて三者間で合意ができれば早急に温泉の利用ができるものと考えて、利害関係人として参加し、右和解をしたところ、控訴人も右訴訟において本件源泉権が自己の権利であることを主張して争つており、右三者間のみの合意では温泉の利用ができないことがのちに判明した。したがつて、右和解における合意には重要な点に錯誤があり、無効である。

(六) 被控訴人佐藤は、参加人が温泉法所定の許可を受けていないとして本件源泉権にもとづく温泉の使用権を争うけれども、右行政許可は公衆衛生上の見地からの規制に止まり、私法上の源泉権とこれに基づく私人の源泉よりの温泉使用権が許可がなければ否定されるというものではなく右主張は誤りである(福岡地裁昭和二九年六月二日判決)。

三  控訴人の主張

1  本件源泉が被控訴人青山の権利となつた経過は認めるが、参加人が本件源泉権を取得し、これにつき、その主張の如き表示をなし、本件源泉の管理占有をなしている事実は否認し、その余の主張事実は不知。

参加人は、採湯場や湯泉管理のための建物を所有し、これを管理しているとし、これをもつて自己の権利を公示してきたと主張するけれども、右採湯場は別紙図面表示の②の場所にあり、源泉の所在する本件土地上にはなく、また源泉管理のための建物は同図表示③の場所にある。源泉管理の建物は被控訴人青山所有の未登記のものであり、控訴人が同被控訴人から借用しているものである。参加人は本件差戻後の原審判決に至るまで、一度も本件源泉権につき自己の権利であることを主張したことはなく、却つて、本件源泉権が控訴人に属することを認め控訴人に対して温泉を利用させてほしい旨申し入れていたのである。

2  控訴人は、原審以来主張しているように、昭和四八年七月一五日、被控訴人青山から本件源泉権を買い受けて取得したが、同日、同被控訴人から本件源泉を管理するために建築された、同人所有の木造トタン葺平家建の源泉擁護建物(未登記、前記②所在のもの)を借用し、以来本件源泉を占有、管理してきたうえ、昭和五三年九月一五日源泉所有者たることを示す告知板を同建物の入口に掲示した。

四  被控訴人佐藤の主張

1  参加人が本件源泉権を取得し、これにつきその主張の如き公示方法をなしたことは否認し、その余は不知。

2  本件源泉権は、本件源泉の所在する本件土地所有権の一部にすぎず、その権利の帰すうは、土地所有権のそれと同一であるから、本件土地の所有者である被控訴人佐藤に帰属するものである。

かりに、本件源泉権が本件土地所有権から独立した別個の権利であるとしても、被控訴人は昭和四一年三月一六日訴外金敬芳から本件土地を買うに当り、本件源泉権もともに買い受けてこれを取得した。

3  かりに、以上が理由ないとしても、参加人は、昭和五一年一月二六日、本件差戻前の原審における和解において、利害関係人として参加し、被控訴人佐藤との間において、本件源泉権が被控訴人佐藤に属することを認めたのである。この和解は、訴訟当事者の一人(原審参加人)である控訴人が加わらずになされたため、訴訟上の効果は生じなかつたものとされたが、和解においてなされた合意の私法上の実体的効力まで否定される理由がないのであるから、本件源泉権が被控訴人佐藤に属することを確認した合意は有効であり、本件源泉権の帰属を争うことはできない。

4  参加人は、本件源泉権に基づき、温泉の使用等の妨害禁止を求めているけれども、かりに本件源泉権が参加人に帰属する場合であつても、温泉を公共の浴用又は飲用に供しようとする者は温泉法一二条に基づく県知事の許可を受けなければならないのに、参加人はその許可を受けていないのであるから、温泉の使用権限を有しないことが明らかであり、温泉の使用権限のない参加人の、温泉使用等の妨害禁止を求める権利はない。

五  被控訴人佐藤の反訴請求の原因

1  被控訴人佐藤が本件土地を取得し、これについて、所有権移転請求権仮登記の移転付記登記を経由した事実関係は原判決の事実摘示第二「原告の主張」中、「(原告の請求につき)一請求原因」において主張したとおりであり、本件源泉権が本件土地の所有権と一体をなすものであること、かりに本件土地の所有権と独立した別個の権利であつても、被控訴人佐藤が本件土地所有権を取得するに当り、同時に本件源泉権をも買い受けて取得したものであり、かりに以上の点が認められないとしても、参加人が訴訟上の和解において被控訴人佐藤が本件源泉権を有することを認め、この合意が和解の訴訟上の効力のいかんとは別に私法上の効力を有することは、前述のとおりである。

2  しかるに、本件土地につき、被控訴人佐藤が移転の付記登記を受けた所有権移請求権仮登記(盛岡地方法務局昭和四一年一月五日受付第一八号)より後れる登記として、控訴人のために同法務局昭和四一年一月一四日受付第九八三号仮処分記入登記が、また参加人のために同法務局昭和四八年一一月一九日受付第四一七二二号所有権移転登記がなされており、さらに控訴人及び参加人は、被控訴人佐藤が本件源泉権を有することを争つている。

よつて、控訴人及び参加人に対し、被控訴人が前記所有権移転請求権仮登記に基づく本登記をなすにつき、右劣後する各登記を有する利害関係者として各承諾を求めるとともに、本件源泉権が本件土地所有権と独立した別個の権利であるときは、被控訴人佐藤と控訴人及び参加人との間で、被控訴人佐藤が本件源泉権を有することの確認を主位的に求め、もし、被控訴人佐藤が本件源泉権を有しないときは、被控訴人佐藤は、次の事由に基づき、控訴人及び参加人が本件源泉権に基づき温泉を採取、利用することの禁止を、予備的に求める。

3  控訴人及び参加人に対し、温泉の採取、利用の禁止を求める根拠は次のとおりである。

被控訴人佐藤は、盛岡市繋字湯ノ舘一二七番地鉱泉地一四坪(荒湯・自然湧出、先祖代々温泉として利用)、同字塗沢二二番地鉱泉地七、四三平方メートル(藤美の湯、昭和三三年掘削、自噴)及び同字五五番二鉱泉地一六、五二平方メートル(昭和三八年一〇月掘削、機械揚湯)を有し、これらの土地から湧出する温泉を利用する権利を有して、これにより繋地区における旅館一七軒、保養所七軒、別荘一一軒に給湯している。

控訴人は、本件土地について昭和三九年七月三日温泉湧出の目的で掘削の許可を得、同年一二月掘削して温泉を湧出させたところ、前記既存の温泉の湧出量が約三〇パーセント減少し多大の影響を及ぼすことが判明したので、地下一七〇メートルの掘削に止め、それ以上の掘削と温泉の湧出を中止させられた。ところが、掘削許可が三七六メートルまでであつたことから、深層の地下温泉が既存の温泉の湧出に影響を及ぼすまいとの予測のもとに、昭和四一年四月ころ掘削を再開し温泉を湧出させたところ、既存温泉に多大の影響を及ぼしたため、岩手県において同年八月八日から同年九月一六日まで調査した結果、本件源泉からの温泉湧出量を毎分三〇〇リットルとすれば、荒湯においては、四七、九パーセント、藤美の湯においては35.4パーセント、前記三つの既存源泉全体で18.7パーセントの温泉湧出量の減量を示し、本件源泉の温泉湧出量を毎分二〇〇リットルとすれば、荒湯において五〇パーセント、藤美の湯において33.8パーセント、三つの源泉全体で19.2パーセントの各温泉湧出量の減量を示し、本件源泉の湧出量を毎分一〇〇リットルとした場合でも、荒湯において44.1パーセント、藤美の湯において29.9パーセント三つの源泉全体で13.3パーセントの温泉湧出量の減量を示し、本件源泉からの温泉湧出が既存の源泉における温泉湧出に多大の影響を及ぼすことが明らかとなつた。

このように、本件源泉から温泉を湧出させるときは既存の源泉である荒湯、藤の湯が枯渇するか少くとも三〇パーセント台まで湧出量が減少し、被控訴人佐藤の既存源泉における温泉利用権が著しく侵害されるのである。

控訴人及び参加人らは、本件源泉権を各自己の権利と主張し、温泉を採用しようとしているが、これは、同人らの温泉の採取、利用は被控訴人佐藤の右温泉利用権を害するものであつて許されないものである。

六  反訴請求原因に対する控訴人及び参加人の認否

1  控訴人

被控訴人佐藤が本件土地を取得した原因として主張する事実関係のうち、本件土地が、それを含む周囲の原野三〇〇坪とともにもと訴外藤本理八の所有であり、訴外上田と訴外峰治が訴外藤本からこれらの原野を買い受けたこと(原判決事実摘示)、本件土地について、控訴人のために、被控訴人佐藤主張のとおりの所有権移転登記がなされていることは、いずれも認める。被控訴人佐藤が所有権移転請求権仮登記の移転付記登記を受けたこと及びその原因関係として主張する事実(原判決事実摘示)は不知。被控訴人佐藤が本件土地の所有権及び本件源泉権を買い受けその権利を取得したとの点は否認する。本件源泉権が本件土地所有権の一部であり、別個の権利ではないとの主張は争う。

被控訴人佐藤主張の和解は不知。

被控訴人佐藤の、既存の源泉における温泉利用権を根拠とする本件源泉権に基づく温泉の採取、利用の禁止を求める反訴提起について不同意であり、その請求を理由づける主張事実についての認否はしない。

2  参加人

被控訴人佐藤の反訴提起に不同意であり、その請求を理由づける主張事実についての認否をしない。

理由

第一被控訴人佐藤の本訴請求、控訴人の原審参加請求及び当審参加人の参加請求について

一被控訴人青山訴訟承継人及び被控訴人菊池の本案前の主張について

被控訴人青山訴訟承継人及び被控訴人菊池は、被控訴人青山(被承継人)がすでに本件土地と源泉権とを参加人に売り渡したことを理由に現在本件土地についていずれも自己の所有権を主張せず、また、被控訴人青山訴訟承継人は本件源泉権について右同様のことを理由に現在自己の権利を主張していないとして、それを根拠に、控訴人の参加請求中、同被控訴人ら(青山については訴訟承継人)に対する本件土地所有権の確認請求及び被控訴人青山訴訟承継人に対する本件源泉権の確認請求と同源泉権に基づく妨害予防請求について、自己の当事者適格を争つている。

そこで、検討するに、先ず、同被控訴人ら(右同)に対する本件土地所有権確認請求については、被控訴人菊池及び同青山が本件土地についてそれぞれ所有権移転登記を経ていることに加え、他方では、右被控訴人らの各所有権移転登記より先順位で所有権移転請求権仮登記がなされた訴外坪谷の本件土地売買予約上の権利を被控訴人佐藤が買い受けてその移転の付記登記を経るとともに売買予約を完結して所有権を取得したとし、これを請求の根拠として、被控訴人佐藤から登記上自己より後順位にあつて各所有権の取得を対抗し得ない被控訴人菊池及び同青山(のちに承継が生じた。)に対して右仮登記に基づく本登記手続をなすことの承諾を求めるとともに、同青山(同)に対して本件土地への立入及び掘削の禁止を求める本訴が提起され、その係属中に、控訴人が、本件土地をもと所有者から買い受けて所有権を取得したこと、被控訴人らの右各所有権移転登記や所有権移転請求権仮登記は実体を伴わない仮装の登記であり、同人らが本件土地の所有権を有しないとし、これを請求の根拠として、控訴人から右各被控訴人ら三名に対し自己の所有権の確認と、被控訴人菊池及び同青山に対し各自の所有権移転登記の、また、同佐藤に対し付記登記によつて移転を受けた所有権移転請求権仮登記の、各抹消登記手続を求めて、民事訴訟法七一条により差戻前の原審において訴訟参加し、このような経過から、被控訴人菊池及び同青山に対しても控訴人の本件土地所有権確認請求がなされ、同青山についてはのちに訴訟の承継がなされて、現在に至つているのであり、右被控訴人ら(青山については訴訟承継人)は、それぞれに本件土地について登記上の利害関係を有しているばかりか、本訴及び参加訴訟を通じて互に他の当事者の所有権を否認し合つていることが本件紛争の実情よりして明らかである。したがつて、控訴人が同条により訴訟に参加して自己の所有権の確認を求める利益があることは多言を要しない。もつとも、被控訴人青山は、控訴人の参加(昭和四二年五月二四日)後に、訴外三菱産業株式会社へ、同会社は更に当審参加人へと順次本件土地を売り渡して、現に本件土地が右参加人の所有であるとし、被控訴人青山もその訴訟承継人もその後は自己の所有権を主張してはいないのであるが、現在、控訴人及び被控訴人ら(青山については訴訟承継人)全体との間で本件土地の所有権が請求の対象たる権利として、または請求の前提たる権利として、それをめぐる紛争が存在していることに変りはなく、控訴人の本件土地所有権の確認請求について、被控訴人菊池及び同青山訴訟承継人の当事者適格が失われることはないというべきである。

次に、控訴人の被控訴人青山訴訟承継人に対する本件源泉権確認及び同権利に基づく妨害予防請求についても、被控訴人佐藤と同菊池及び同青山との間で本件源泉権の根拠地である本件土地の所有権に基づく土地の立入、掘削の禁止等を求める本訴及び被控訴人青山の本件源泉権確認請求の反訴(これはのちに取り下げられた。差戻後の原審第五回弁論調書及び当審第一〇回弁論調書参照。)の各訴訟が差戻前の原審に係属していたところ、控訴人が前述のとおり、本件土地の所有権確認等の訴旨により訴訟参加し、のちに、本件源泉権が本件土地所有権とは別個の権利であるとの見地から、改めて、被控訴人佐藤及び同青山に対し、自己の本件源泉権の確認及び本件源泉権に基づく温泉採取等の妨害禁止を求めて参加請求の追加拡張をするに至つたため、被控訴人青山及びその訴訟承継人(現在)との間においても、その請求が維持されているものである。そして、この点に関し、被控訴人佐藤は本件源泉権が本件土地所有権の一内容をなすにすぎず、自己の権利の一部であると主張し、また被控訴人青山は控訴人の参加後に本件源泉権を控訴人から譲受けて他に譲渡し、現在は当審参加人に属すると主張して、右譲渡後は自らの権利は主張しないものの、控訴人の権利を争い、その訴訟承継人もその主張を維持しており、本件源泉権の帰すうをめぐり三当事者間に紛争が持続しているものであることは各当事者の主張の趣旨に照らして明らかである。

したがつて、本件源泉権の確認及びその権利に基づく妨害の予防を求める訴えは、被控訴人青山訴訟承継人との間においても利益があるというべきである。

被控訴人菊池及び同青山訴訟承継人の本案前の主張は採用できない。

二本案の請求について

1  本件紛争の全体は、のちに検討する被控訴人佐藤の反訴請求をも含め、本件源泉権とその所在する源泉地たる本件土地の所有権をめぐつて、被控訴人佐藤、控訴人(原審における参加人)及び参加人(当審における)が、各現にこれが自己の権利であることを主張し、また被控訴人一郎と同青山訴訟承継人は現在自己がその権利者であることは主張していないものの、嘗て自己又はその被承継人が本件源泉権や本件土地の権利移転の過程に関与するとともに現に本件土地の不動産登記上に自己の名を連ねているところから、これらの各当事者間の対立、紛争が続いているものであるが、各当事者の主張から窺われる紛争の実情によれば、このような紛争が生じたゆえんは現に紛争の当事者となつている者の外、過去に取引に関与した関係者らが、経済的価値の増加が見込まれる本件源泉権と、その根拠地として、権利行使に不可欠な本件土地の取得を意図し、それぞれの思惑のもとに各個に取引を重ねた結果、各関係者間の、権利の所在についての認識が錯綜して利害の衝突を生んだことにあるものと推察される。してみると紛争の根源たる本件源泉権と本件土地の所有権の帰属主体が誰かを解明するには、これらの権利の発生と移転の歴史的経過を辿つて観察することが必要であるから、まず、これらの権利をめぐる各関係者間の取引、折衝、紛争の発生とその対応等の一連の歴史的経過について検討する。

2  〈証拠〉を総合すると、前記関係者ら間の取引、折衝、紛争の発生と対応等の一連の歴史的経過として、概要、次のとおりの事実を認めることができる。

(一) 控訴人(昭和三九年当時の商号は株式会社もりおか新聞社、以下この商号を用いていた当時の控訴人を、もりおか新聞ということもある。昭和五五年一一月現商号に変更)の代表者である上田武夫(雅号、雅英、以下、単に上田という。)と訴外菊池峰治(以下、単に峰治という。)の両人は、訴外藤本理八所有の盛岡市繋字湯ノ舘九七番一原野(この所有関係は争いがない。)の一部を掘削して温泉を湧出させ、その権利を取得することを企画し、昭和三九年一月九日、右両者間において「掘削費用を峰治が負担して原野を掘削し、温泉が湧出した場合には、その権利及び湯売却による代金収入を平等に取得する」趣旨の協定(丙第一九号証)を結び、同年一月二五日には、その準備として上田の主宰、経営にかかるもりおか新聞の名義により前記土地所有者の藤本理八との間で、前記土地中、掘削に適する四坪の土地につき「藤本がもりおか新聞に対し掘削のために予めその使用を許すとともに、のちに分筆のうえこれを売り渡すことを予約する」旨の鉱泉地使用と売買の予約(丙第二一号証)を結んだが、同年二月九日には、もりおか新聞と峰治間においても、上田、峰治間の前記協定と実質的に同旨(上田の地位をもりおか新聞に置き換えたに等しい。)の協定(甲第九号証)を結ぶとともに、同年七月三日には、先に昭和三七年九月一〇日付でもりおか新聞の名により申請していた温泉の掘削が岩手県知事により許可された(同県指令三七商第五七四号、甲第三一号証、第三五号証)ところから、いよいよ土地の売買契約を結ぶことにし、昭和三七年七月二五日、藤本と上田、峰治間において、「掘削予定地を含む原野一反歩を、代金一五〇万円で、手付金として二五万円を即時に、残代金一二五万円を温泉湧出時にそれぞれ支払い(不湧出の場合でも手付金は返還しない。)、代金完済と引換えに所有権移転登記手続をなすことの約旨で藤本から上田、峰治の両人に原野を売り渡し、かつ温泉掘削のために即時に原野を使用することを承諾する」旨の売買契約書(甲第八号証)を取り交わした。

(二) 右原野売買の手付金二五万円は、上田と峰治とが各半額を負担して支払う約束であつたが、上田にその資金がなかつたところから、峰治が友人加藤謙次郎(地質学に詳しい理学博士で、のちに、温泉掘削の指導を担当することになる。)の仲介により訴外金敬芳(以下、単に金という。)から二五万円の融資を受けて同日その支払をした。また、同年八月二五日には、もりおか新聞が峰治から三〇万円を借用したが、この借金債務について、「前述の協定(同年二月九日付契約、甲第九号証)において、もりおか新聞の権利とすることにした温泉湧出に伴う二分の一の権利を、同年一〇月一五日までに借金の弁済ができないときは確定的に峰治に移転する」旨の約定で担保に供した(丙第一一号証)が峰治が貸与したこの三〇万円の金主は前記金であり、実質的な貸主は金であつた。

(三) 右三〇万円の借金は、結局弁済期に弁済されなかつたところ、これに関し、もりおか新聞は峰治に対し「期限前に弁済の意向を申入れたのに、貸主の峰治が受領を拒んだことにより温泉湧出による権利についての担保権がすでに消滅したのに、峰治がその権利を自己の権利の如く喧伝している」旨の昭和三九年一一月一三日付抗議の内容証明郵便(丙第一〇号証)が届けられたが、峰治はこれを無視して資金を金から出して貰つていた関係から、金との間で、同年同月二七日付により、「もりおか新聞が掘削の許可を受けた温泉の掘削は、峰治が金の資金によりその代行として施行しているもので、その権利義務はすべて金に帰属する」旨の念書(甲第一〇号証)を金に差し入れた。そして、前記三〇万円の貸金の外にも、峰治がもりおか新聞に対してその後四〇万円を貸与してその貸金の合計が七〇万円に達したが、峰治が温泉掘削から手を引く条件としてもりおか新聞に対し右貸金の返済を求めたこと等から、結局、訴外加藤謙次郎の仲介により、従前どおり峰治が温泉の掘削を推進することとし、同年一二月一〇日付で、もりおか新聞と峰治間において「温泉掘削に関する一切の権利及び湧出すべき湯の使用権利を峰治に譲渡し、峰治がもりおか新聞に対してその代金七〇万円を支払つた」旨の譲渡契約書(甲第一二号証、丙第一二号証)及び「峰治が温泉掘削を行うために必要な法律上の諸届出、申請、温泉湧出後の諸手続に関する一切の権限を、温泉掘削の許可名義人たるもりおか新聞から峰治に委任する」旨の委任状(甲第一一号証)をそれぞれ作成して峰治に差し入れた。しかし、もりおか新聞はその一週間後の同年同月十七日には、「七〇万円により自己の権利が剥奪される虞れがあるとしてこれを理由に前記の契約を廃棄して七〇万円を返済する」旨の覚書(丙第一三号証)の案文を作つて峰治に送付し捺印を求めたが、峰治はその捺印を拒み、同年同月二一日付で金の名義により訴外三共ボーリング株式会社(以下、三共ボーリングという。)に対し、深度二三〇メートル迄の温泉掘削工事を依頼し、その契約書(甲第一三号証)を作成した。

右温泉掘削工事は、それより先の同年九月ないし一〇月頃から他の工事業者により施行されていたが、右三共ボーリングにおいて掘削を続行し、同年一二月五日には地下深度95.8メートルから毎分一六二リットル、同月二七日には同じく一〇四メートルから毎分432.2リットルの温泉湧出をみた(甲第二二号証、第三五号証)ので、峰治は昭和四〇年一月一五日付で、金から更に資金の援助を受けることを目論み、「自己がもりおか新聞から譲り受けた掘削により湧出した温泉とその使用権の一切を金に譲渡する」旨の念書(甲第一四号証)を金に差し入れた。

(四) もりおか新聞と峰治間においては右のように、温泉掘削による権利の帰属について内部的な紛争が生じたが、対外的には先に藤本との間で結んだ、原野の売買契約について、昭和四〇年一月二五日付、藤本と上田、峰治間の契約書(丙第一号証)を作成して、契約の履行期間を六か月間延長した。

その後、右温泉掘削工事を更に進めた結果、同年二月六日頃、地下深度一三三メートルから三九度C毎分二一六リットルの温泉湧出をみたところ、峰治は前記温泉使用権の譲渡に関する金との間の右(三)の念書の趣旨に対応し、金から将来における多額の融資を期待して、もりおか新聞の名義により、同年四月二日、金との間で「温泉掘削に関する一切の権利(岩手県指令三七商第五七四号許可にかかる温泉湧出を目的として掘削している権利)を、もりおか新聞が金に無償で譲渡する」旨の公正証書を作成した(丙第二二号証)。

その後、もりおか新聞と峰治との間で折衝し、更に加藤謙次郎の仲介のもとに、もりおか新聞、峰治及び金の三者間において、同年四月一〇日、すでに湧出した温泉(湯の舘温泉とも本陣の湯とも稱した。)の開発に関して三者間で協議をなし、「もりおか新聞が湯の舘温泉の利用権、所有権等一切の権利を放棄し、金の責任で、観光ホテル建設のための法人を設立し、その法人に源泉の所有権を譲渡すること、源泉地は金の指定する法人の所有としてその旨の登記をなし、湯は法人の使用する分を除いた残余があれば、三者間で、もりおか新聞が二分の一、峰治、金が二分の一の割合で分配すること」の旨の契約書(丙第二号証、第三号証)を作成し三者間の権利の調整をしたが、他方、もりおか新聞は、右契約をもつて、金から融資を受けるための方便であるとし、前記七〇万円の借金のため温泉掘削による権利を失いかねないことを懸念し、同年同月一八日付により峰治から、「先に、峰治がもりおか新聞から申入れのあつた七〇万円の返済を受領しなかつたのは、金から資金を調達して温泉掘削を円満に推進するためであり、その金額でもりおか新聞から権利を剥奪する意図はない」旨の念書(丙第九号証)を徴求した。

(五) 右協議が成立したところから、金から藤本に対し、温泉の湧出地である鉱泉地(源泉地ともいう。)一坪について、所有権移転登記手続の要求がなされたため、藤本は、弁護士と相談の結果、昭和四〇年六月三日上田に対して、右温泉地部分は先に上田に売り渡した土地の一部であり、これを金に所有権移転をなすときは二重売買になるとして、金に対する所有権移転登記をなすについての上田の承諾を求め(丙第八号証の一・二)、これに対して同年同月五日付で、上田、峰治の連名により藤本に対してその承諾書(丙第二〇号証)を届けたところから、同年同月七日九七番一原野から一坪(本件土地)を九七番三として分筆して、同年同月八日、昭和三九年九月二七日売買を原因として金に対する所有権移転登記を経由するとともに、その翌日地目を原野から鉱泉地に変更しその登記をなした(甲第一号証)。

このような経過で、本件土地は金の所有名義に登記されたので金はその後昭和四〇年八月二四日本件土地を、被控訴人菊地から三〇万円を借用するに当つて担保のために売り渡しその旨の念書(甲第一六号証)を同人に差し入れたところ、その後間もなく、もりおか新聞は峰治との連名により同年九月九日付内容証明郵便(丙第四号証)により、金に対して、「先の同年四月一〇日付契約にかかる温泉開発計画及び温泉配分協定を同月末日(開発計画につき)及び同年一〇月末日(配分につき)までに実現すべき」旨の催告をするとともに、その期限内実現が困難な見通しとなるや、同年一〇月、上田個人の名で峰治との間で、「本件土地の所有名義を金策の便宜上金に移したものであつて本件土地は実質的には上田の所有に属するものであることを認め、一旦峰治の所有名義に返還を受けたのち上田に戻す」旨の合意をしてその念書(丙第五号証、第六号証)を作成のうえ、峰治から金に対して所有名義の返還交渉をするに至つたが、金はこれに応じなかつた(丙第二三号証、第二四号証の各一・二)。

(六) 金は、峰治からの右所有名義の返還要求を拒否するとともに、先に被控訴人菊池に対して念書により本件土地を担保にし、借金していた債務の返済が遅滞したことから、同被控訴人から要請されて、昭和四〇年一一月一九日、「本件土地を三〇万円で同被控訴人に売り渡した」旨の売買契約書(乙第一八号証)を作成して同人に差し入れるに至り、また、一方では同年一二月七日、訴外坪谷勝登に対し本件土地を五〇〇万円で売り渡す旨の売買予約をし、代金の内金一〇〇万円を受領して同日付により本件土地について同訴外人のためにこれを原因とする所有権移転請求権登記を経由し、この仮登記についてはのちに、残代金の不払のため売買予約の解除に基づき同年同月二四日付で抹消登記がなされたが、再度昭和四一年一月四日残代金の支払をなすこととして売買予約を復活させその翌日同訴外人のため所有権移転請求権仮登記(盛岡地方法務局同年一月五日受付第一八号、この登記が本件訴訟において被控訴人佐藤が本登記を求める前提としている仮登記に当り、また他の関係当事者から抹消登記を求める対象となつているものである。)を経由し(甲第一号証参照)、この残代金は後日完済された。

ところで、訴外坪谷は、本件土地の値上りを期待してその買収のために五〇〇万円を投下したにも拘らず、後述の如く、本件土地より湧出する温泉について、地元の温泉業者等からその事業の根拠として依存する既存の温泉源が枯渇して事業に重大な支障を及ぼすとして排斥運動が起り、また、これに基づく県の行政指導により湧出した温泉の使用が禁止されることが予測された(県の行政指導による水留指示はその後間もない同年三月二八日付でなされた《甲第三一号証》)こと等から、投下資本を割つてでも本件土地を早急に処分せざるをえなくなり、同年三月五日、本件土地についての右仮登記上の権利を三五〇万円で被控訴人佐藤に譲渡した。そして、被控訴人佐藤は同日、本件土地所有名義人の金から、右仮登記上の権利の移転についての承認とその本登記手続をなすべきことの約束(甲第二三号証)を取りつけるとともに同年同月一四日右仮登記移転の付記登記(同法務局同日受付第五八二三号)を経由した。

(七) 被控訴人佐藤は、盛岡市繋字湯ノ舘一二七番、字塗沢二二番、同字五五番二にそれぞれ温泉源を有し、瑞光の湯、藤美の湯、荒湯の呼称のもとに、これらの源泉より湧出する湯を、いわゆる繋温泉街を形成する旅館、保養所、別荘等多数の施設に供給してきた既存の温泉給湯業者であり、かつ繋温泉組合の長でもあつたところ、もりおか新聞が新たに県知事の許可を受けて、前述の如く本件土地において温泉掘削を行い、昭和三九年一二月下旬には浅層から多量の温泉湧出をさせ、また昭和四〇年二月には更にそれより深層からも温泉湧出をさせたため、既存の温泉源からの温泉湧出量が顕著に減少するに至つたとして、その頃から岩手県経済部長に対して温泉湧出量の調査と、善処方を求め、それによる行政指導が発動される虞れがあつたうえ、新温泉源の掘削による既存温泉源所有者との摩擦が新聞にも報道されて、地域の社会問題に発展した。

このような事情から、本件土地を掘削して湧出をみた前述の温泉を利用することは極めて困難な情勢となつたので、本件土地について売買予約に基づく仮登記上の権利を取得していた訴外坪谷は早期にその権利を売却処分するのを有利と判断し、他方被控訴人佐藤も、この仮登記上の権利を取得したうえ更に土地の所有権をも取得して、他人が土地所有者として温泉掘削をするのを防止し、かつすでに掘削した温泉源を廃することにより既存温泉源の枯湯を防止したいとの意向をもち、双方の利害打算から、右権利の価格を温泉掘削の実費程度の価格と評価し、三五〇万円の代金により右仮登記上の権利の譲渡がなされるに至つたものである。

(八) 金に対する所有名義の返還交渉が意の如く進展しないところから、もりおか新聞は、本件土地について訴外坪谷のための前記仮登記がなされた後(被控訴人佐藤のための移転の付記登記がなされる前)の、昭和四一年一月一四日、金を相手に、本件土地の処分禁止の仮処分命令を得てその記入登記を経由するとともに、被控訴人青山と提携して先に温泉の湧出をみながら、既存の温泉業者らの反対運動等により採湯の断念を余儀なくされた本件土地の温泉源を更にその深層において掘削開発することを計画し、同年二月五日付により被控訴人青山に対し、地下三〇〇メートルまでの温泉掘削の委任状を交付した(丙第二五号証)。

(九) もりおか新聞と被控訴人青山の右のような動きに対して、金から、同年二月一五日付内容証明郵便によりもりおか新聞と上田個人に対し、「金が、もりおか新聞から七〇万円で温泉に関する権利のすべてを譲り受けた峰治から、その権利を取得し、したがつてもりおか新聞は無権利者であるのに金の権利を妨害しているので、先の昭和四〇年四月一〇日付の温泉開発計画に関する契約等は、実質の伴わない無効なものであることを通告する旨」の返事が届けられた(甲第一五号証)が、被控訴人青山は、もりおか新聞からの前記温泉掘削委任状を受けていたので、被控訴人菊池から本件土地(前述のように、同人は金から担保のために本件土地を譲り受け、訴外坪谷の仮登記がなされたのちの昭和四一年二月一七日付で所有権移転登記《盛岡地方法務局同日受付第三六二九》を経ていた。)を五〇万円で買収して同年三月二日付(被控訴人佐藤が前記仮登記移転の付記登記を経由する直前の日)で、同年二月一七日売買原因により自己の名義に所有権移転登記(同法務局同日受付第四九五二号)を経由するとともに、同年三月一五日、温泉掘削の許可名義人たるもりおか新聞の名義により本件土地の掘削再開届を県知事に提出し(乙第五号証)、更に、加藤謙次郎の斡旋により同年四月、金に対して二〇〇万円を支払うことにより本件土地に存した温泉掘削の施設を買い取り(乙第二号証ないし第四号証)、自己の費用を投じて前記三共ボーリングに依頼し先に一三三メートル迄掘削した温泉湧出部分を、県の指示(同年三月二八日付)に従い水留工事を施したうえでその下層について掘削工事を進め、このようにして同年(四一年)五月一八日頃には地下深度二七四メートル附近から、四六度C、毎分一二〇〇リットルの温泉湧出をみたので、同年同月一九日付で、右湧出の内容を記載した「温泉掘さく工事終了届」をもりおか新聞の名義により岩手県知事に提出し、同年同月二一日温泉登録(岩手県観第一四四号)を得た(甲第三一号証、第三五号証、乙第一号証、第六号証、第一〇号証、第一一号証)。

(一〇) 被控訴人青山は、右工事中の昭和四一年五月一一日、被控訴人佐藤から、自己及び被控訴人菊池を相手として本件土地の各所有権移転登記の抹消登記手続及び本件土地の立入り、掘削の禁止、掘削設備の撤去を求める本訴(差戻前の原審同年(ワ)第一二〇号事件)が提起されたが、掘削を進めて、前記のとおり温泉湧出と温泉登録を経たので、右温泉を根拠にしてその周辺の土地を買収のうえ温泉付分譲宅地の造成開発をすることを計画し同年五月二六日には、もりおか新聞から、右登録にかかる温泉(湯の舘温泉、本陣の湯と呼稱)の権利(本件源泉権)を、上田とともに、各二分の一ずつ譲り受けて上田との共有とし、その翌日岩手県知事に対してその届出をなし(その旨の登録がなされたものと推認される。)同年六月一日付で、その旨の公正証書の作成を得(乙第一号証、第一四号証、丙第一七号証)、また、同年五月二六日付で、本件土地(九七番三)及びその隣接地たる九七番五・六地上の採湯場建物(家屋番号九七番六、コンクリートブロック造及び木造ビニール板葺平家建9.8平方メートル、同年五月二二日新築)について自己の所有名義に保存登記を経由し、同月二七日にはその権利中持分二分の一を上田に贈与して同年七月一五日付で共有の名義に移転登記を経由した(乙第二一号証、丁第二五号証)。

次いで被控訴人青山は、本件土地の隣接地に、同年八月一日頃までに、右採湯場建物と相近接して木造コンクリートブロック亜鉛メッキ鋼板葺二階建の事務所一棟を建築し(この建物は、のちに昭和四四年一二月五日付で訴外岩手三菱コルト自動車販売株式会社の名義に所有権保存登記がなされた《丁第二六号証》。)また建築の時期は明らかではないが、本件土地の温泉湧出部を覆う形で、平家建の温泉擁護建物(未登記)を建築して、これらの各建物を占有してきた(これらの各建物の位置関係は別紙図面のとおりであり、更に周辺土地との位置関係につき、乙第八号証、差戻前の原審検証調書図面《記録六二七丁》参照)。

被控訴人青山は、昭和四二年四月一五日、もりおか新聞の了承のもとに、本件源泉権中の上田の持分全部を三五〇〇万円で譲り受けて自己単独の権利とする(採湯場建物についても同年一〇月二七日付で自己の単独所有名義に移転登記を経た。)(乙第一五号証、丁第二四号証、第二五号証)とともに、その頃から周辺の土地約一万七〇〇〇坪を約一〇人ほどの地権者より逐次買収して温泉付分譲宅地の造成計画の遂行に着手した(乙第八号証、第九号証はその買収計画地と造成開発計画図)。

(一一) 被控訴人佐藤は、被控訴人青山らのこの動きに対抗し、昭和四一年五月一一日前記(一〇)冒頭記載のとおり本訴を提起し(のちに、昭和四九年七月九日仮登記に基づく本登記手続の承諾請求を追加)、更に同四一年七月五日には金との間で、本件土地につき前記付記登記により訴外坪谷から移転を受けた仮登記に基づく所有権移転の本登記手続をなすことの即決和解をなし(甲第六号証)、また同年一一月四日には、被控訴人青山と上田とを相手として本件土地への同人らの立入禁止及び本件土地の執行官保管の仮処分命令を得て執行をなす(甲第三二号証)とともに、同年一〇月一二日付文書により既存の温泉旅館等の業者らとともに岩手県温泉審議会及び同県議会に対し、更に昭和四三年六月二七日付文書により右各機関及び岩手県知事に対し、本陣の湯の停止と既存の温泉旅館等の業者の救済のための善処方を求めるそれぞれの陳情をなし(甲第三五号証、第三七号証)、これに対して同年七月二〇日の同県議会において、後者の陳情が善処方を要望するものとして採択されるに至つた(甲第三八号証)。

(一二) 他方、被控訴人青山は、その間の昭和四二年一月一八日、被控訴人佐藤の右訴えに対し、本件源泉権が自己の権利に属することの確認とその権利行使の妨害禁止を求める反訴を提起し(差戻前の原審昭和四二年(ワ)第一八号事件)、次いで、控訴人が同年五月二四日、本件土地の自己の所有権確認と各被控訴人らの所有権移転登記(青山及び菊池)及び所有権移転請求権仮登記(佐藤)の各抹消登記手続を求めて、当事者参加をなし(同、同年(ワ)第一一七号)、かくして、これらの当事者間における合一確定を求める訴訟に発展した。

(一三) 被控訴人青山は、本件土地について、右のとおり係争中ではあつたが、昭和四六年三月五日付で、自己が経営に関与している訴外岩手三菱コルト自動車販売株式会社(のちに、岩手三菱自動車株式会社に商号変更)の名義に一旦所有権移転登記を経由したのち、昭和四七年二月七日付で再び自己の名義に所有権移転登記をし直す(同法務局同日受付第三七四七号)(乙第一九号証、丁第六号証)とともに、同日、本件土地と造成対象の周辺土地五十六筆、採湯場等二棟の建物及び本件源泉権(乙第二〇号証記載の物件)を共同担保として、債権極度額四億五〇〇〇万円の根抵当権を設定して訴外徳陽相互銀行から融資を受け、その一部を造成開発資金に充てた。

被控訴人青山はこのようにして買収土地の一部の造成を実行したが資金が続かず、同年九月頃には訴外三菱産業開発株式会社に対して徳陽相互銀行に担保に供していた全物件(本件源泉権を含む。)の権利を約五億円の代償により譲渡しその引渡をして一切手を引くとともに、同銀行に対する自己の債務を同訴外会社に引き受けて貰つた(それに伴い、本件土地についてなされた同銀行の根抵当権設定登記も同年同月一八日付で債務者を被控訴人青山から同訴外会社に変更する旨の登記を経た《丁第三号証、第六号証》。)。しかし、同訴外会社も当審参加人丸昌(当時の商号は変更前の株式会社丸信であつた。)から多額の融資を受けていた関係等から、その債務整理のために右譲受物件を早晩参加人に対して売却処分せざるをえない状況であつたため、自己が被控訴人青山と参加人との間の売買を仲介する形で中間省略により売却処分することにし、その便宜のため、同年七月一〇日頃、被控訴人青山から、右物件全部の売却を自己に依頼する旨の委託契約書(乙第二〇号証は、同銀行の担当職員の発案にかかるその委託契約書の案であり、これには本件土地と本件源泉権も売却の対象物件に含まれている。)を受けた。

(一四) 右訴外会社は右物件を直ちに売却するのを避け、当初、右物件中、本件土地を含む土地三九筆、建物二棟及び本件源泉権を自己の参加人に対する債務の担保に供した(不動産につき、昭和四八年六月九日付で、一億二二〇〇万円の債務について抵当権設定登記、条件付賃借権仮登記及び代物弁済契約を原因とする条件付所有権移転仮登記を経由)が、間もなく、債務整理のため、右担保に供した物件全部(本件土地と本件源泉権を含む。)を、参加人に対し六億一二〇〇万円で売却するに至り(右代金額中約二億五〇〇〇万円は前記銀行の根抵当権の被担保債権を引き受けてその支払に充て、約一億三〇〇〇万円ないし一億四〇〇〇万円は現実に支払われ、残余は借金債務の整理に充てられた。)、同年一一月一九日付により、売買物件中の不動産(前記二棟の建物を含む。)につき同年同月一六日売買を原因として参加人の名義に所有権移転登記を経由するとともに、その頃参加人に対して売買物件の引渡を了し、さらに、同年六月一日付に遡らせて前記訴外会社と被控訴人青山から参加人に対する売買契約書(丁第一号証)を作成して取り交わした(ただし、丁第一号証の売買対象物件には本件源泉権の表示がなされていないが本件源泉権も売買対象となつたものであることは次に述べる買収目的からも明らかである。)。

(一五) 参加人は、右訴外会社に対し当初右各物件を既存の融資の担保とし、又はこれを担保にして新な融資をしたが、その返済が困難となつて結局訴外会社に対する融資金の整理のために、これら担保の物件を買い受けざるを得なくなつたという事情があるものの、参加人がこれを買い受けるに至つた動機はこのような事情の外にもこの物件をもとにして温泉付宅地の造成分譲と観光ホテルの建設等を企図したものであつた。

ところが、右買い受けにかかる物件中の右計画遂行に不可欠の本件土地と本件源泉権をめぐつて前述の如く訴訟が係属し係争中であつたうえに、被控訴人佐藤の申立による本件土地への立入禁止等の仮処分が執行されていて現実には本件土地及びそれに根拠を有する本件源泉権を利用することができない状況であつたため、参加人はその対応に苦慮していたところ、右訴訟は昭和五〇年六月頃から和解の動きがあり、差戻別の原審において訴訟上の和解の勧試がなされたので、参加人は利害関係人としてこの和解手続に参加し、昭和五一年一月二六日、被控訴人らと参加人との間で(原審参加人たるもりおか新聞は、最初の和解期日に出頭したが、和解の意思なく次回期日から欠席して合意に加わらなかつた。)、要旨次の内容の和解が成立した。

右和解に関与した当事者らは本件土地の所有権及び本件源泉権が被控訴人佐藤に属することを確認し、各関係人は、各自の名義に登記された所有権移転登記又は自己に関係する根抵当権設定登記の抹消登記手続をする。被控訴人青山は県知事に対し、本件源泉権の名義を被控訴人佐藤の名義に登録替え手続をする。被控訴人佐藤と参加人とは県知事に対し本件源泉権について温泉法一二条一項の許可申請手続をする。被控訴人佐藤は「参加人が既存温泉に影響を与えない限度において定める量の温泉を、本件源泉より有償で採湯し、利用すること、参加人がその採取した湯の一部を一定限度で被控訴人青山に有償で分湯すること」を各認める。被控訴人青山は本件源泉権について権利を有せず、また被控訴人佐藤と参加人に対して、右の外は、何らの請求権も有しない。

(一六) もりおか新聞が右の和解に加わらなかつたため、もりおか新聞対その余の当事者(利害関係人を除く。)間の訴訟が残存するものとして訴訟が続けられたところ、もりおか新聞は、右和解後これに対抗して、右和解において一部の有償による給湯を受けるほか、本件土地及び本件源泉権について殆んど自己の権利を認められなかつたことに強い不満を抱いていた被控訴人青山と共謀し、本件源泉権についての自己が権利を有することの根拠を示すための書面を作成することにし、参加人が本件土地について所有権移転登記を経由した日(昭和四八年一一月一九日、同年同月一六日売買原因)より以前の日付である同年七月一五日に遡つて、「もりおか新聞が被控訴人青山から本件源泉権(湯の舘温泉、本陣の湯)を三五〇〇万円で譲り受けた」旨の契約書(丙第一六号証、丙第一八号証は後日その誤字を訂正したもの)を作成して、この書面(丙第一六号証)を和解後の昭和五一年九月一四日の口頭弁論期日(差戻前の原審第五一回弁論)において証拠として提出した。そして、差戻前の原審においては右和解後の残余の訴訟につき、昭和五二年三月二二日、もりおか新聞の参加請求を全部棄却する旨の判決言渡がなされたが、もりおか新聞はこれに控訴して訴訟を維持するとともに、本件土地及び本件源泉権の自己の権利主張を持続した(ただし当時は訴訟上、本件源泉権についての確認請求を積極的に求めていず、その請求を追加したのは、後述のとおり差戻後の原審においてである。)。

(一七) 参加人は前述のように本件土地を含む前記物件及び本件源泉権を訴外三菱産業開発株式会社から(契約書上は、中間省略により被控訴人青山から)買い受けたが、その後、前述のとおり利害関係人として和解手続に参加し、本件土地の所有権と本件源泉権が被控訴人佐藤に属することを認める代りに、同被控訴人から本件源泉よりの温泉採取と利用の権利を承認されたところから、昭和五二年一一月九日右買受にかかる物件中三三筆の原野、山林、宅地等、面積合計約三万九六〇〇平方メートルについて、岩手県知事から、都市計画法二九条による開発行為の許可を受け、「つなぎガーデンタウン」又は「つなぎのさと」等の呼稱のもとに、温泉付分譲宅地の開発と観光ホテル、スポーツ施設の建設構想を樹立した(丁第四号証、第一一号証)。

しかし、他方和解に加わらなかつたもりおか新聞との関係では、同会社が前述のように、一審(差戻前の原審)において全面敗訴の判決を受けたものの、控訴して紛争を続けており、もりおか新聞との間においても本件源泉の使用関係を調整しない限り前記温泉付分譲宅地の造成やホテル建設等の構想を実現することが至難な情勢であつたところから、昭和五三年九月八日、徳陽相互銀行盛岡支店に会合して折衝した結果、金銭上の負担、出捐を甘受しても早急な解決をして右構想を推進するのが得築であるとの考慮からもりおか新聞に対する補償をすることにし、同日付により、その補償として、「岩手県知事から温泉給湯の承認があつた場合には参加人がもりおか新聞に対して三〇〇〇万円を支払うこと、この費用については地元温泉業者や被控訴人佐藤に対して請求をしないこと」等の旨の念書(丙第三六号証)を、また被控訴人青山もこの会合の話合の趣旨に応じて同年同月一〇日付により、「湯の舘温泉の建物は自己の所有であるが、もりおか新聞が温泉源防護の目的でこれに施錠し、立入り、また表示板を設置することを許す」旨の念書(丙第三一号証)を、それぞれもりおか新聞に対して交付したところ、もりおか新聞は、同年同月一五日、前記温泉擁護建物(温泉湧出口を覆う未登記の建物)に自己の会社名を表示した「立入禁止」等の旨を記載した表示板を取り付けた(丙第三三号証の一ないし三)。

(一八) 参加人は、前記和解及びもりおか新聞との右合意により、本件土地と本件源泉について、自己の利用権の調整ができたとの見地から昭和五四年末には被控訴人青山外一名の者に前記建設構想の計画土地内に井戸の堀削を依頼し、昭和五七年五月には、「温泉付別荘地」としての価格評価をする便宜上、当時もりおか新聞の商号から御所湖株式会社に商号を変更していた控訴人(以下においては控訴人という。)から温泉給湯の承諾書の交付を受け(丙第三八号証は、この温泉給湯承諾書を、国土利用計画法による土地評価の目的外に使用しないことの誓約書である。)、同年六月には計画地内の温泉付別荘地(分譲宅地)の一部について盛岡不動産鑑定所の価格評価鑑定を受け(丁第一四号証)、同年九月には岩手県知事に対し、計画地内の一一筆の土地の権利移転について国土利用計画法二四条一項一号に該当しない旨の確認申請をする(丁第一〇号証)等前記構想の推進活動をした。

(一九) 他方、前記訴訟事件の控訴審においては、昭和五五年五月三〇日、当事者参加(参加人はもりおか新聞、すなわち当審控訴人)により合一確定を要する三面訴訟となつている場合に、一部の当事者間のみで和解をしてもその効力はなく、残余の当事者との関係部分のみを分別して一部判決をすることは許されないものとして、原判決の取消と差戻の判決がなされたため、訴訟は再度原審に係属するに至つたが、控訴人は差戻後の原審において、昭和五七年一月一八日(第四回口頭弁論期日)において昭和五六年九月二一日付準備書面により、本件源泉権の自己の権利の確認を求める請求を追加するに至つた。

そこで、参加人はこれに対応して、本件源泉権が自己の権利であることを明確に公示するため昭和五八年三月三〇日前記温泉擁護建物に、自己の会社名を表示して「自己が温泉権利者である」旨の表示板を取り付けた(丙第三七号証の一、二、丁第五号証の一、二、参加人の昭和六二年一一月一一日付準備書面参照。)。

3  以上の事実を認めることができる。

差戻前の原審における証人金敬芳(第一・二回)、同菊池峰治の各証言、同被控訴人青山(第一・二回)、同控訴人代表者上田武夫(第一・二回)各本人尋問における供述、差戻後の原審における被控訴人青山、同控訴人代表者上田武夫各本人尋問における各供述、当審における証人岩崎善吉の証言及び同控訴人代表者上田武夫(第一・二回)本人尋問における供述中、以上の認定に反する部分は、以上の認定に採用した各証拠と対比して採用できず、他にこの認定を動かすに足りる証拠はない。

4  以上認定の事実関係に基づいて、本件土地及び本件源泉権の帰属について考察する。

(一) 本件土地所有権の帰属について

(1) 前記認定した事実によると、本件土地は原野の一部であつてもと所有者の藤本理八から上田(又はもりおか新聞、同人らはもりおか新聞とその代表者をしていた上田個人とを厳密に区別せず、両者を同一の如くにして取引していた。)及び峰治の両名が買い受けたものと認めるのが相当である。

そして右両人が金から資金の提供を受け、また将来も資金の提供を受けるための担保とする趣旨で、これを金に譲渡したことから、藤本、上田(又はもりおか新聞)及び峰治、金の三者間の合意により、中間を省略して金の名義に所有権移転登記がなされ、その後金から、一方においては借金の担保として被控訴人菊池に譲渡され、次いで同人から被控訴人青山へ、更に(途中省略)参加人へと順次売り渡されて、それぞれの所有権移転登記がなされるとともに、他方においては金から坪谷に対して売買の予約(実質的には売買であり、契約書上及び不動産登記上、売買予約に止めたものである。)がなされて、被控訴人菊池に対してなされた右所有権移転登記より先順位で右売買予約に基づく所有権移転請求権仮登記がなされるに至つたが、その後、坪谷から被控訴人佐藤に売買予約上の権利が譲渡されて、同人のために右仮登記移転の付記登記がなされ、更に金との間で売買予約を完結して仮登記に基づく所有権移転の本登記手続をなすべき旨の約束がなされたものであるから、右権利移転の経過に照らせば、もし藤本から被控訴人佐藤に至るまでの権利移転の過程に無効の事由が存しない限りは、本件土地はすでに先順位の仮登記を経由し、その順位保全の効力により被控訴人佐藤の所有に帰属することになり、被控訴人菊池、同青山及び参加人はそれぞれ自己の名義に所有権移転登記を経由してはいるものの、被控訴人佐藤の順位保全効に劣後し、自己の所有権取得をもつて被控訴人佐藤に主張することができない関係にあるものといわねばならない(控訴人は被控訴人青山から本件土地を買い受けたと主張し、前記認定の如く差戻前の原審における和解ののち、日付を昭和四八年七月一五日付に遡らせて、右主張にそう内容の契約書を作成したのであるが、かりに、控訴人が被控訴人青山から右契約書により《その時期はともかくとして》本件土地を買い受ける契約をしたとしても、それを被控訴人佐藤に主張することができないことは、被控訴人青山らと同様である。)。

(2) そこで、被控訴人佐藤に至るまでの右権利移転の過程における無効事由の存否について更に検討を進めるのに、控訴人は、「自らが藤本から本件土地を買い受けたものであつて、藤本と金との間の所有権移転登記の原因関係たる売買は通謀による虚偽の意思表示であつて無効である」と主張し、これをもつて金の所有権取得を否定する理由とするとともに、反面、自己の所有権取得の根拠としている。しかし、前述の如く、本件土地につき藤本から金に対して所有権移転登記がなされるに至つたのは、藤本から上田(又はもりおか新聞)と峰治を中間者として更に金へと、売買又は融資債権の担保として順次本件土地の譲渡がなされ、中間省略によつてその所有権移転登記を経由したものであるから、たとえその一部に所有権移転の動機ないし目的が債権担保の目的に出たものがあつたとしても、所有権移転の意思が存したことは否定できないのであり、これを通謀による虚偽の意思表示とみることはできない。そして外にも控訴人主張の通謀虚偽表示の事実は、これを認める証拠がなく、採用できない。

(3) ところで控訴人は自己が藤本から本件土地を買い受けたとして自己の所有権を主張するのであるが、後述の処分禁止の仮処分との関係もあるので、右事実の存否と控訴人の所有権取得の有無についてここで考察する。

右の主張が、前述の藤本―上田(又はもりおか新聞)と峰治―金へと順次譲渡された中間者の買い受けの事実を指すものとすれば、それは峰治と共同で買い受けたのち昭和四〇年六月頃金へ権利を譲渡したものであるから処分禁止の仮処分が出た昭和四一年一月当時控訴人はすでに権利を失つているものと言わざるをえないし、そうでなく、右事実とは別個に控訴人(当時もりおか新聞)が藤本から買い受けたとの主張とすれば、それを認めるに足りる十分な証拠はない。

もつとも、控訴人が藤本から本件土地を含む四坪の原野について売買予約の書面(丙第二一号証)を作成し、また藤本から金に対する所有権移転登記をなすに当つての問い合せの書翰(丙第八号証の一・二)に「藤本から上田に土地を売り渡した」旨の記載がなされているが、前者は上田と峰治とが共同で本件土地を買い受けるための予備行為となつたにすぎず、この予約に基づいて控訴人が単独で売買の本契約を結んだ証拠はなく、後者も、この問い合せに対して上田と峰治との連名による返書(承諾書、丙第二〇号証)を送付しているうえに、これらの書面による折衝により金への所有権移転登記がなされたのであつて、控訴人が右権利移転とは別に自己単独で本件土地を買い受けた事実を認める根拠とはなりえない。その他控訴人が他に自己単独で買い受けた事実を窺わせる証拠はないし結局控訴人は昭和四〇年六月頃の金への譲渡後、本件土地の所有権を有しないものである。

(4) 次に、被控訴人菊池、同青山訴訟承継人及び控訴人は、金と坪谷との間の売買予約が仮装のもの、即ちその予約が不成立か又は通謀による虚偽の意思表示として無効であると主張するのであるが、前記認定の如く、実際に対価の支払をなして(実質上の売買がなされ、ただ、契約書と登記上売買予約の形に止めておいたものである。)、売買の予約がなされたことは明らかであり、これが通謀による虚偽の意思表示によるものであることを認める証拠はない。

被控訴人菊池、同青山訴訟承継人及び控訴人の右主張は採用できない。

(5) 更に、被控訴人青山訴訟承継人は、坪谷から被控訴人佐藤に対する所有権移転請求権仮登記についての移転の付記登記が、控訴人から金に対してなされた処分禁止の仮処分の記入登記後の処分に当るとして、これを理由に被控訴人佐藤の権利を否定するのであるが、右付記登記と仮処分との先後の関係は確かに右主張のとおりであるものの、控訴人が当時の本件土地の所有者である金に対して、保全処分として処分の禁止を求めうべき被保全権利たる所有権(弁論の全趣旨に照らし、右保全処分の被保全権利は、本件土地についての控訴人の所有権であつたものと認められる。)を昭和四〇年六月以降有していなかつたことは右に説示したところから明らかである(なお、右仮処分の本案訴訟が係属したことを窺わしめる証拠はない。)から、右仮処分記入登記には処分禁止の効力がなく、結局、(仮処分の当事者以外の第三者との関係ではもとより)その当事者たる控訴人との関係でも、被控訴人佐藤の権利取得を否定すべき事由にはなりえない。

(6) 以上の次第で、本件土地は、被控訴人佐藤の所有に属するものであり、本件土地について被控訴人菊池以後順次所有権移転登記を経由している者(本件訴訟において当事者となつている者としては、被控訴人菊池、同青山《現在は訴訟承継人》及び参加人)は自己の所有権取得をもつて、被控訴人佐藤に対抗できない。

(二) 本件源泉権の帰属について

(1)  本件源泉権は、本件土地を地下深度二七四メートル附近まで掘り下げた結果、同所から湧出した温泉をその地表における湧出口ないし汲揚口(湯口)から採取して利用すべき権利であり、それは岩手県知事により、昭和四一年五月二一日付で温泉登録(岩手県観第一四四号)を経た権利を指すものである。

人工を加えずに地表に湧出し又は地表を流動する温泉の場合はともかくとして、少くとも本件源泉権の如く、人工的に土地を掘削して温泉を地表に顕現させ採取可能な状態を現出させた場合の源泉に対する権利は、その加工のために多大の資本を投下するのが通常であるうえ、地盤自体のもつ経済的価値とは別に、それ自体独自に格段に高度の価値を有し、社会的な見地からも地盤とは別個の取引客体と観念されているものと思科されること等に照らし、地盤たる土地所有権と離れた別個の権利であり、権利者の排他的支配に服するものと解するのが相当である。

もつとも、温泉の源泉権が地盤たる土地所有権と離れた別個の権利と解されるとしても、元来、土地の所有権はその地上、地下の全てに及ぶのが原則であるから、土地から温泉を湧出させる源泉権をもつて土地の所有権と離れた別個の権利と認めることは所有権に関する右の原則に対する例外を認めることになるので、取引の安全を図る見地よりして、温泉の源泉権をその権利者から取引により取得する者は地盤の土地所有者(その土地の所有権について取引に入る第三者に限られない。)に対してはもとより、源泉権について取引関係に入る第三者に対しても、自己の権利を主張しうるための対抗要件を具備することが必要であり、少くとも明認方法を施して権利の公示をする必要があるというべきである。

被控訴人佐藤は、本件源泉権をもつて、本件土地所有権の一内容をなすにすぎないとし、独立の権利性を否定するが採用できない。

(2) そこで、以上の観点に立つて、本件源泉権の発生、移転の由来について検討するに、本件源泉権は、控訴人(当時もりおか新聞)が掘削の許可を受け、当初峰治及び金において掘削を遂行して地下一三三メートル附近において温泉の湧出をみたが地元温泉業者の反対や県の行政指導により、一旦同所からの温泉湧出とその採取を断念したのち、控訴人の依頼により被控訴人青山が右温泉の水留めをしたうえで更にその地下を掘削したすえ、地下二七四メートル附近において新たに温泉の湧出を得て前述のとおり控訴人の名義で温泉登録を経たのであつて、控訴人は、本件土地の地下二七四メートル附近から本件土地内の地表に存する湧出口(湯口)を経て温泉を採取しうる権利をここに原始的に取得するに至つたものであり、しかもこの源泉権は地盤と離れて独自に権利取得の対象となることは前記のとおりであつて、その権利の原始的な取得は、権利発生の当時及び現在の本件土地(地盤)所有者である被控訴人佐藤との関係においては、その掘削に関する地盤自体について適法に占有しうる法的関係にあるかどうかなどその法律関係のいかんにかかわらずこれを適法に主張しうるというべきである。

(3)  しかして、控訴人が原始取得した本件源泉権は、その後上田及び被控訴人青山に各二分の一の持分により、更に上田の持分二分の一が被控訴人青山に順次譲渡されて被控訴人青山が単独で権利を取得し、その後、同被控訴人から(途中経過省略)参加人に譲渡されて参加人がその権利を取得したところ、被控訴人青山はその権利取得当時本件源泉の温泉湧出口及びそれに隣接して採湯場、事務所及び温泉擁護建物を建築して所有し(前二棟の建物については自己の名義に所有権保存登記)また参加人はその権利取得後以上の既登記の建物について所有権移転登記を受けるとともに右温泉擁護建物に、本件源泉権が自己の権利に属する旨の表示板を取りつけて、それぞれ自己の権利関係を公示してきており、その権利取得について明認方法を施していると評価することができるので、結局、本件源泉権の終局的な取得者である参加人は、その権利取得をもつて、現在の本件土地所有者である被控訴人佐藤に対し、その権利取得を主張、対抗することができるというべきである。

(4) 被控訴人佐藤は本件源泉権を本件土地と共に買い受けてその権利を取得したと主張し、同被控訴人が本件土地について坪谷から売買予約上の権利の譲渡を受けるとともに、予約義務者たる金との間で予約を完結して本件土地の所有者となつたことは前述のとおりであるが、本件源泉権は本件土地の所有権から独立した権利であつて、本件土地の所有権を取得したことにより当然に本件源泉権をも取得したものと言えないことは先に説示したところから明らかであり、また前記認定の事実によれば、被控訴人佐藤は坪谷から本件土地の売買予約上の権利の譲渡を受けるに当り、当時地下一三三メートル附近から温泉の湧出をみて温泉採取のために利用しうる源泉が存したがその権利を譲受の対象から除去したものと認められるばかりか、その点は措くとしても、本件源泉権は、右の地下一三三メートル附近からの温泉湧出による源泉を水留のうえ、更に深層を掘削して得られた別個の源泉に関するものであり、前後別個の源泉権と目すべきものである。

もとより地下一三三メートル附近における温泉の湧出と、地下二七四メートル附近の温泉の湧出とにおける地下温泉の水脈は地質学的には同一の水脈ないし水源に由来するものと評価しうる余地もありえよう(前掲証人加藤謙次郎の証言)が、温泉を採取し、利用しうる源泉についての権利は、天然に地下に埋蔵されている温泉の水脈や水源についての権利ではなく、温泉を採取し、利用しうる能力を有するに至つた装置を伴つた温泉についての権利とみるのが相当であるから、たとえ、その地下水脈や水源が地質学的に同一の根源と評価される場合であつても、温泉湧出に至る装置が異る場合には別個の源泉として独立の権利の客体となるべきものと解するのが相当である。

したがつて、本件源泉権は、前記の水留をした源泉とは異るものとして、別個に開発された源泉について、控訴人(もりおか新聞)が前述のとおり原始的に取得するに至つたものであり、被控訴人佐藤は、この源泉権についてはこれを買い受けた事実はないのである。

(5) これに関し、被控訴人佐藤は、昭和五一年一月二六日の差戻前の原審における和解において、参加人が、被控訴人青山らとともに本件源泉権が被控訴人佐藤の権利に属することを認めたとして、これを、自己の権利主張の一根拠としているのであるが、右主張の如き内容の和解が成立したことは先に認定したとおりであるけれども、右和解が訴訟当事者の一人である控訴人が加わらなかつたため、差戻前の控訴審において無効とされるに至つたことも前述認定のとおりである。そして、当裁判所もこの点は同様に解するのであり、右和解は訴訟上無効であるのみならず、私法上の関係においてもその効力が生じないものと解されるから、被控訴人佐藤は、右和解を根拠として本件源泉権について自己の権利たることを主張することはできない。もつとも、右和解は法的に効力がないとしても、和解に関与した関係者がそのように認識していたとみる余地がある場合もあり得ようが、前記認定のような多年にわたりかつ複雑な紛争形態のもとにおいて成立した前記和解をもつて、そのように考えることは妥当を欠くものがあるといわざるを得ない。結局、被控訴人佐藤は、この源泉権については如何なる取引関係に立つたこともなく、したがつて無権利というほかはない。

(6) 次に、控訴人は昭和四八年七月一五日本件源泉権を被控訴人青山から買い受けて取得したと主張しており、控訴人と被控訴人青山との間で右同日付で右の主張にそう契約書(丙第一六号証)が作成されたことは先に認定のとおりである。

しかし、右契約書は、先に認定したように、控訴人が前述の和解に加わらず、和解(昭和五一年一月二六日)後において、それに不満を抱いていた被控訴人青山と共謀し、和解に対抗して自己の権益を保持する手段として作成したものであり、かりに、この書面記載の如き意思表示が形式上両者間に成立したものとしても、内容虚偽の意思表示とみられ、控訴人が本件源泉権を取得することの効果は生じなかつたものというべきである。

(7) なお、参加人は、控訴人が右契約書を作成して自己の権利主張をしたのに対し、昭和五三年九月八日の徳陽相互銀行における折衝の結果、控訴人に対して補償金を支払う約束をしたことは前記認定のとおりであるが、これは前記認定の諸事実によれば、参加人が自己の事業計画の早急な推進を図る必要から、権利主張をする控訴人との間を取り敢えず調整することを要したことによるものと認めるのが相当であり、このことをもつて、控訴人が当時本件源泉権を有していた事実や、参加人がその権利を確定的に承認したことまでを示すものではない。

(8) 以上のとおりで、本件源泉権は参加人の権利に属するものというべきである。

5  被控訴人佐藤の本訴請求について

被控訴人佐藤の本訴請求は、本件土地所有権に基づき被控訴人菊池及び同青山訴訟承継人に対し、同人らが本件土地について被控訴人佐藤の仮登記に劣後する所有権移転登記を経由した利害関係者であることを理由に、右仮登記に基づく所有権移転の本登記手続をなすについての承諾を求めるものである(原審においては、その外に、右被控訴人らに対し右各所有権移転登記の抹消登記手続請求及び被控訴人青山に対する本件土地への立入禁止・本件土地の掘削禁止請求をなし、その請求が棄却されたが、被控訴人佐藤からこの点についての不服申立はない。)ところ、右事実関係は、以上の説示に照らし、すべてこれを認めることができるから、被控訴人佐藤の右請求は正当としてこれを認容すべきである。

6  控訴人の参加(原審における参加)請求について

控訴人の参加請求は、控訴人が本件土地の所有権及び本件源泉権を有することを前提として、前者の権利に基づき被控訴人佐藤、同菊池及び同青山訴訟承継人に対して本件土地の自己の所有権の確認を、また、被控訴人佐藤に対して前記仮登記の、被控訴人菊池及び同青山訴訟承継人に対して右各所有権移転登記の、いずれもこれらが実体を伴わない無効なものとして抹消登記手続を、それぞれ求め、後者の権利に基づき、被控訴人佐藤と同青山訴訟承継人との間で、本件源泉権の自己の権利確認を、また同人らに対し、本件源泉権行使のための本件土地使用の妨害禁止を、それぞれ求めるものであるが、控訴人の右請求の根拠である本件土地所有権及び本件源泉権が控訴人に帰属するものと認めることができないことは前述のとおりであつて、控訴人の参加請求は失当として棄却を免れない。

7  参加人の請求について

(一) 参加人の請求は、参加人が本件源泉権を有することを前提として、被控訴人佐藤、同青山訴訟承継人及び控訴人との間で本件源泉権の自己の権利の確認を、また、右当事者らに対し、本件源泉からの自己の温泉採取等の妨害禁止と本件源泉権行使のための本件土地使用の妨害禁止を、それぞれ求めるものであるところ、参加人が本件源泉権を有することは先に説示したとおりであるから、本件源泉権の確認を求める請求は理由があり正当として認容すべきであるし、参加人が本件源泉権に基づき、その温泉の採取、利用、管理をなすべき権能を有するので、何人もこれを妨害すべきではないところ、前記認定した諸事実によれば現実に妨害されるおそれがあるというべく、その禁止(妨害予防)を求める請求もまた正当として認容すべきである。(なお後述(三)参照)

(二) 被控訴人青山訴訟承継人は参加人が本件源泉よりの温泉使用について温泉法一二条所定の許可を受けていず、温泉を使用すべき資格がないとして、これを理由に参加人の本件源泉権に基づく妨害予防請求権を否定している。しかし、源泉権を有する者がその温泉を温泉法所定の用に供する場合には同法一二条により所轄県知事の許可を要するものの、そのことの故に、他人が源泉権者の権利行使を違法に妨害するのを許容すべきものではないから、参加人が現在同法条の許可を受けていないことを理由に参加人の請求の正当性を否定することはできない。

(三) しかし、参加人の本件土地の使用妨害禁止請求については、たとえ参加人が本件源泉権を有し、その権利行使として本件源泉からの温泉の採取、利用、管理をなしうる権能を有するとしても、地盤たる本件土地が他人の所有である場合には、右権能に基づいて当然に本件土地を使用しうるものとはいえないのであり(温泉の採取、利用、管理をなすべき権能は地盤の使用権を伴わない限り具現しえないものでありその意味では抽象的観念的なものに過ぎないといえるが、そうだとしても、その権能が保護されるべきものであることは否定し得ないものである。(一)参照)、前述の如く本件土地は被控訴人佐藤の所有に属し、参加人が他にこれを使用すべき権原を有することの主張、立証のない本件においては、参加人の本件土地の使用妨害禁止請求は理由がないものとして棄却を免れない。

file_4.jpgeuae Prrd tues Oemrcree) a. L2mrx 2 oman) or Onanaum 1.500 Oomene anne tere ee第二被控訴人の当審における反訴請求について

1 事実関係の認定は第一と同様である。

2  被控訴人佐藤の反訴請求は、(一)本件土地の所有権を有することを前提として、前示仮登記に基づき、控訴人が本件土地について、右仮登記に後れて処分禁止の仮処分登記を経由し、また参加人が同様に右仮登記に後れて所有権移転登記を経由した各利害関係者であることを理由に、同人らに対して右仮登記に基づく所有権移転の本登記手続をなすについての承諾を求め、(二)本件源泉権を有することを前提として、主位的に被控訴人佐藤、同青山訴訟承継人、控訴人及び参加人との間で、本件源泉権の自己の権利確認を、予備的に、本件源泉権の行使として温泉を採取することにより自己が有する既存の温泉源が枯渇し、これが自己の既存源泉権に対する不法な侵害となることを前提として、既存の源泉権に基づき本件源泉権の行使としての温泉採取等の禁止を、それぞれ求めているものである。

3  参加人は、被控訴人の右反訴請求の全部について、また控訴人は反請求中の予備的請求について、いずれも控訴審における反訴の提起に同意しないとして、その却下を求めているのであるが、反訴請求のうち、仮登記に基づく所有権移転の本登記手続をなすについての承諾請求及び本件源泉権の確認を求める本位的請求については、前記認定の事実経過に鑑み、本件土地の所有権及び本件源泉権の帰属をめぐつてすでに訴訟が係属し、被控訴人佐藤が本件土地の所有権を有することを前提として、原審以来、その仮登記に基づく所有権移転の本登記手続をなすについて、被控訴人菊池及び同青山(現在はその訴訟承継人)に対してその承諾を求める本訴請求を維持し、また控訴人の原審以来の本件源泉権の確認請求に対して、それが自己の本件土地所有権の一内容であるとして、または自己がその権利の譲渡を受けたものとして、自己の権利を主張して争い、これらの争点が審理の中心となつて来たものであることは明らかであるから、被控訴人佐藤が控訴審たる当審において更に控訴人及び参加人に対しても右仮登記に基づく所有権移転の本登記手続をなすについての承諾請求を追加し、また右当事者ら及び被控訴人青山訴訟承継人との間で自己の源泉権の確認を求める反訴の提起を許しても、主として、相手方当事者においてすでに原審以来攻撃防御を尽してきた資料をもとに判断をなしうるところであつて、審級の利益を害することはないと認められる。したがつて、右反訴の提起については相手方当事者の同意がなくても、これを当審において審判の対象とすることが許されるべきである。

しかし、反訴請求のうち、予備的請求については、その請求の根拠たる事実関係が当審において初めて問題として浮上すべき性格のものであるから、相手方当事者の審級の利益を保護するための予備的請求にかかる部分の訴え提起について相手方当事者の同意がない本件においては、不適法な訴えとして却下を免れない。

4 そこで、右反訴請求(本位的請求)の当否について更に検討するに、被控訴人佐藤が本件土地の所有権を有し、また本件土地について前示仮登記を経由しており、前記認定事実によれば、右仮登記に後れて控訴人が処分禁止の仮処分記入登記を、また参加人が所有権移転登記を各経由した利害関係者に当ることが明らかであるから、被控訴人佐藤のこれら利害関係者に対して仮登記に基づく本登記手続の承諾を求める反訴請求は理由があり認容すべきであるが、本件源泉権は参加人に帰属し、被控訴人佐藤に属しないことは第一において説示したとおりであるから、その自己の権利の確認を求める反訴請求は失当として棄却すべきである。

第三被控訴人青山の地位の承継

弁論の全趣旨により、被控訴人青山は昭和五八年一二月二四日死亡しその相続人青山光男がその地位を相続により承継したことが認められるとともに、本件訴訟上の同人の地位をも承継したものであることは記録上明らかである。

したがつて、前記第一・第二において説示した被控訴人青山の義務ないしは権利関係確認の相手方たる地位は、右相続承継後においては右承継人青山光男がその義務を負い、また相手方たる地位に立つものである。

第四結論

以上に説示したとおりであるから、被控訴人佐藤の本訴請求及び当審における反訴請求中、被控訴人菊池、同青山訴訟承継人光男、控訴人及び参加人に対して本件土地の仮登記に基づく所有権移転の本登記手続についての承諾請求(このうち控訴人と参加人とに対する分は当審における反訴請求)は正当として認容すべきであるが、本件源泉権の確認請求(当審における反訴本位的請求)は失当として棄却すべきであり、その余の請求(同予備的請求)にかかる訴えは不適法としてこれを却下をすべきものである。また控訴人の原審における参加請求はすべて失当として棄却すべきであり、参加人の当審における参加請求中、本件源泉権の確認請求と被控訴人佐藤、同青山訴訟承継人及び控訴人に対する本件源泉権に基づく温泉採取等の妨害禁止を求める請求はこれを正当として認容すべきであるが、その余は失当として棄却すべきである。

よつて、以上の結論と同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないので、民事訴訟法三八四条一項に従い本件控訴を棄却し(ただし、当審における、被控訴人青山から同光男への相続承継に伴い原判決の主文第一項を、この判決の主文第一項のとおり更正する。)、当審における参加人の参加請求及び被控訴人佐藤の反訴請求については主文二・三項のとおりであり、当審における訴訟費用の負担については同法九五条、九二条、九三条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官奈良次郎 裁判官伊藤豊治 裁判官石井彦壽)

別紙目録

(一) 盛岡市繋字湯ノ舘九七番三

一 鉱泉地 3.3平方メートル

(二) 盛岡市繋字湯ノ舘九七番三鉱泉地3.3平方メートルにつき、岩手県観第一四四号登録による源泉権

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